明治の終わりに、中国人の父と日本人の母の間に生まれ、両国間で育ち、中学時代から日本語で発表した詩が注目を浴びた黄瀛。

文化学院や陸軍士官学校で学ぶ一方で、宮沢賢治、高村光太郎、草野心平、井伏鱒二らと交流し、昭和9年『瑞枝』（ボン書店）を上梓しますが、本書はそれ以前の昭和5年に自費出版された限定100部の詩集となります。

「小さい可愛い詩集が自分にもほしいと思うのは、単なる気まぐれかもしれない。僕の変動のある生活の中からこの種の詩をまとめた稚心を誰が知ってくれるだらう。
（中略）
で、今度田村栄君の好意を知った機会、お言葉に甘へてこの詩集を印刷することにした。収容されている詩はすべて僕の所謂『小さい可愛い詩』それは六号風景、コダック、双眼鏡、ペーパナイフかもしれない。時としてはチュウインガムか、愛するシェパアドかもわからない。
主として青島、北平、天津、東京での作品である」

その後、黄瀛は中国に帰国後、将校として日中戦争を戦い、戦後は解放軍に転じ、文化大革命中は捕虜となり11年以上勾留され、長らく消息不明とされた時代も。
62歳から重慶市の四川外語学院日本語学科教授として日本文学を教え、1984年以降、複数回に渡り来日を果たし、2005年98歳で没しました。

詩集は肖像画や挿絵を含むものでしたが、詩の紹介を優先するために、図版の著作権手続きを進めながらテクストのみをまず復刻したとのことです。

文庫64pages あるきみ屋
2024.10.25