2002年生まれ、愛知県立芸術大学で作曲を学びながら、ユニークな音楽活動を展開する梅本佑利の、
スーパーバッハボーイに続く、楽曲のダウンロードカード。
「萌え²少女」のダウンロード用シリアルコードを印字したプラスチック製カード(5.4 cm x 8.5 cm)が、縦26cmの「萌え²ちゃん」台紙(14.5cm x 26 cm)についています。
1. 萌え2少女 [04:28]
2. 萌え2少女 #2 [01:30]
演奏: 山澤慧(チェロ)
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梅本佑利 Yuri UMEMOTO
日本のサブカルチャーと西洋音楽における「物語消費」的構造の類似性、現代音楽における「スーパーフラット」の提示は梅本作品において主要なコンセプトである。
ヤマハ株式会社との共同開発によるAI合奏システム・自動演奏技術を用いた新作、作曲家・山根明季子との共同作業によるオーケストラ作品の発表など、コラボレーションにも積極的である。
これまでの出演/発表歴に、ボンクリフェス(2019年、東京芸術劇場)、BBCプロムス・ヤングコンポーザー(2020年)、Endless Imaginary(2021年、ライゾマティクス)、Tokyo Music Evening Yube(2021年、豊島区)、仙台クラシックフェスティバル(2021年)等がある。
作曲を川島素晴に師事。
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「萌え²少女」,「萌え²少女 # 2」(2022)は、独奏楽器とwav音源のための連作である。音源は、声優との共同作業で収録された「アニメ声」によるいくつかのセリフを、DAW上で編集して制作された。独奏楽器は音源のピッチを模倣したり、ずらしながら演奏する。単語や文章として認識できるセリフを「スピーチ・メロディ」の手法で扱うほか、発音を一音ずつ母音の箇所で切り刻み、言葉の意味を失った、還元的な(音そのものとしての)アニメ声の素材が各所に用いられている。
「萌え²少女」では、前者の手法が曲全体を通して用いられ、#2 は、後者の手法のみで構成されている。
この作品は、日本語の「アニメ声」、「萌え声」で発声された言葉が持つ「音響」を音楽的に提示することを目的としている。
既存のアニメやゲーム等からサンプリングされた素材を用いた「音MAD」と呼ばれる日本のインターネット文化は、この作品に大きな影響を与えている。また、「萌え²少女」で扱われる「スピーチ・メロディ」の手法*)は、スティーブ・ライヒやヤコブ・テル・ヴェルデュイ(ヤコブTV)の直接的な影響を受けている。それは基本的に、スティーブ・ライヒが「ディファレント・トレインズ」(1988)で実践したような、微分音的な話し声のピッチを楽器の音律で模倣するものであるが、この作品においては、用いる言葉や単語の連結によって紡がれる一貫した「物語」は意図していない。
「萌え²少女」は、「アニメ声」や「萌え声」、「少女」の声といった素材を音楽表現に落とし込む可能性を模索した実験であり、言葉に含まれる意味論的な内容をほとんどそのまま音楽に用いたが、# 2においては、言葉を徹底的に切り刻むことで、意味論的な内容を引き離し、記号論的な内容に変換した。そして、それらの記号を過剰な情報量で提示することで、聴者が素材を、構築/構成主義的に捉え直す可能性を模索した。作者にとって、ここでの「萌え」や「少女」に実体は無い。
2022年9月14日 梅本佑利
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