アルメニア系トルコ人アーティストMasist Gul(1947–2003)は300本を超える映画で脇役を演じましたが、
その私生活は謎に包まれ、生前、膨大なコラージュやドローイング、詩を創作していました。
それらはみな発表されることはありませんでしたが、
80年代に手掛けた“Kaldirim Destani – Kaldirimlar Kurdunun Hayati ”
(Pavement Myth – the Life of the Pavement’s Wolf)という6巻からなる
漫画形式の物語のお手製本もそのうちのひとつで、
2006年にイスタンブールのBASから復刻され、初の出版となりました。
“Kaldirim Destani – Kaldirimlar Kurdunun Hayati ”は、
Masist Gul本人をモデルにした、ストリートに生きる男の物語。
便所に捨てられ、魔女に拾われ、”便所ネズミ”と呼ばれて、虐待のうちに育った少年が、
やがて魔女を血祭りにあげ復讐し、ネズミでなく人間として生きようとするも、
殺人罪でおたずね者となり、野犬と食べ物を争う路上&逃亡生活の果てに捕まり、
ムショ送りにされ…、といった波瀾万丈の人生が、
ストリートファイトを随所に盛り込みながら、述懐されます。
物語も常軌を逸してますが、力強い描写が圧巻です。
それぞれに英語のサマリーがついていますが、以下に少し
それぞれのストーリーを紹介しておきます。
vol.1
主人公Kaldirim Fahrはグル自身をモデルにしたタフガイ。異常に盛り上がったリーゼントとヒゲが特徴です。
第一話では、魔女がトイレに捨てられた赤ちゃんを見つけ、便所ネズミと呼び、手加減なしに殴る蹴るの虐待を行ないます。炭置き場に置いて、ろくに食事も与えず、物心ついたときから物乞いをさせます!
ある夜、衰弱した便所ネズミはヤキゴテで殴打され、その恐怖と痛みは彼のトラウマとなり、魔女への反抗心を募らせながら、生きるのにいっぱいいっぱいの日々を送るのでした。
残忍な虐待シーンに突如、割って入る、成人した便所ネズミならぬ路上の狼、マシスト・グルが、魔女といえども女性に容赦なくリベンジする妄想シーンがあって、第一巻からストーリーは暴走! 17×24センチ 50pages
vol.2
熱湯責めなど様々な折檻で魔女に虐待される”便所ネズミ”は、ある日、街頭の争乱の場で偶然ピストルを拾い、魔女に復讐すべく家に戻る。家に石を投げ込み魔女を狼狽させるが、弾丸ははずれ、二ヶ月のお仕置きで、食事も与えられずに炭置き場で過ごすことになり、炭を食べて飢えをしのぐはめに。便所ネズミが餓死すると思った魔女は男に姿を変え、新たに子供を仕入れ、手なずけ連れ帰る。帰路、魔女の変装を見破った男たちが、群衆とともに魔女をやっつけようとするが、呪術で応戦され大バトルに。
一方、体力を温存した便所ネズミは、帰宅した魔女にリベンジする。魔女は新たな子供を呪術で大きくして応戦するが、戦いの中で特異な能力を引出した便所ネズミはとうとう魔女を血祭りにあげ勝利、脱ネズミを果たし、人としての明るい未来を手に入れたかにみえた。
しかし、手先の子供が、すかさず通りに出て「人殺し」呼ばわりし、彼はさらなる窮地に追い込まれてゆく…。
17×24センチ 50pages
vol.3
魔女を殺し、おたずねものとなった少年は、犬と骨を取りあうまでに落ちぶれ、ストリートファイトにあけくれ逃亡するが、ついに警察に捕まり、監獄に送りこまれる。そこではじめて普通の食事を口にしたが、トラウマである魔女の妄想に取り憑かれムショ内で大暴れ。しかし、裁判所で、魔女の虐待と、彼の悲惨な生活が明らかになり、人々は彼に同情する。裁判官も、件の魔女の悪行には思い当たるものがあった。
それは、あるならず者男が、通りかかりの家から漏れる奇妙な声をいぶかしく思い、様子を窺い、魔女の折檻を目撃してしまったことから起こった悲劇であった…。
17×24センチ 50pages
vol.4
魔女は、呪術でならず者男をあやつり、町中を徘徊させるが、その呪いによって、見るもののすべてが魔女の顔にうつり彼を恐怖に陥れた。医者に行っても医者の顔が魔女に見え、自分を何年も探している警察に出頭しようと決意。驚いた警察が、彼の名を呼ぶと、我に帰り、再び元の乱暴者となり暴れる始末。しかし裁きの場で再び、群衆に紛れた魔女の呪術で、記憶がなくなった彼は、ついには老人に変貌し息絶えてしまう…。すっかり髪が抜け落ちた頭に十字の刻印を見た魔女は、息子が生まれたときに自ら印したものであることを認め、悲嘆にくれるのであった。
これらのエピソードを語った裁判官は、一同に便所ネズミへの慈悲をとき、いくばくかの金を与え、無罪放免にする。しかし、これまでの劣悪な環境から、少年は社会生活への適応に困難を極める。トルコ風呂で騒動をおこし、レストランでは相手にされず。行き詰まった彼は、かつてのすみか、魔女の家に戻る。17×24センチ 50pages
vol.5
疲れて寝る前に、一服しようとしたはじめてのベッドに寝転がり煙草を吸う便所ネズミは、火の不始末で瞬く間に家を焼いてします…。
わずか7才にして、ゴミ箱を漁り、路上で寝ることになった彼は、ついには病気になり、肉屋の前に倒れてしまった。店先で汚い小僧に寝込まれた主は,容赦なく便所ネズミの顔面を蹴りつけ、ショーウインドウに叩き付け、割れたガラス代を弁償すべく働けという。便所ネズミは猛反撃に出るが、死闘空しく、服従を強いられるたため、肉屋の金を持って逃亡、病院でつかの間、体を癒すのであった。しかし、肉屋の通報で、彼は再び捕まり、あの裁判長から3年の刑を言い渡され、寝床や日々の食事が保証されたことにほっとしたのであった。
3年後、なお監獄にとどまりたい便所ネズミを、監視係は下着一枚で娑婆に放り出す。便所ネズミ11才 1916年のことであった。 17×24センチ 50pages
vol.6
さて、波瀾万丈の便所ネズミの運命はーーー!!!